自治体が生成AIを調達するとき、機能一覧と利用料金だけでは仕様書になりません。どの業務で、誰が、どの情報を扱い、どの品質を確認し、問題が起きたときに誰が止めるかまで整理する必要があります。さらに、契約終了時にデータや設定をどう返却・削除・移行するかを決めておかないと、運用開始後に変更しにくくなります。
デジタル庁は2026年6月に「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」を公表しています。この資料は各府省庁を対象とする政府向けガイドラインです。地方自治体へ一律の義務として説明するのではなく、自団体の条例、情報セキュリティポリシー、調達規程、個人情報の取扱いに合わせて参考にします。
仕様書の前に利用目的を一文で固定する
「生成AIを導入する」だけでは、必要な品質も安全対策も決まりません。まず、対象業務、利用者、入力情報、出力の使い方、人が行う確認を一文で表します。
例として「公開済みの庁内資料を参照し、職員が案内文の下書きを作る。最終公開は担当職員が原資料と照合して承認する」のように、AIの役割と人の責任を分けます。住民の権利や給付、許認可に関わる判断を自動化する用途とは、要求水準が異なります。
要求事項を7つに分ける
| 区分 | 仕様書で確認する項目 | 確認資料の例 |
|---|---|---|
| 利用範囲 | 対象業務、利用者、禁止用途、権限 | ユースケース一覧、権限表 |
| データ | 保存場所、学習利用、保持期間、削除、再委託 | データフロー、契約条項 |
| 品質 | 正確性の確認方法、根拠表示、保留条件 | テスト結果、評価手順 |
| 安全 | 認証、ログ、脆弱性対応、事故連絡 | 安全管理資料、連絡体制 |
| 運用 | 管理者機能、変更通知、問い合わせ、教育 | 運用設計書、研修計画 |
| 監査 | ログの取得範囲、保存期間、報告、是正 | 監査報告、月次報告例 |
| 終了 | データ返却、削除証明、設定移行、閲覧停止 | 終了計画、移行形式 |
事業者へ「安全ですか」と尋ねるだけでなく、どの資料で確認するかを対にします。すべての案件に同じ証明を求めるのではなく、扱う情報と影響の大きさに応じて確認の深さを決めます。
受入試験を契約後へ先送りしない
提案時のデモが動いても、実際の行政文書、権限、ネットワーク、利用人数で同じように運用できるとは限りません。仕様書に受入条件を記載し、合否と修正期限を確認できるようにします。
- 代表業務と、誤回答の影響が大きい例外業務を選ぶ
- 入力してよいデータだけでテストケースを作る
- 期待する出力、根拠、保留、職員確認の条件を決める
- 権限外情報が表示されないこと、ログが残ることを確認する
- 不合格時の修正、再試験、受入不可の扱いを契約条件と合わせる
契約終了時の出口を決める
生成AIサービスは、会話履歴、参照文書、設定、プロンプト、利用ログなど複数のデータを持つことがあります。終了時に何を返却できるか、どの形式か、何を削除するか、バックアップからいつ消えるかを確認します。
- 返却対象とファイル形式
- 削除対象、削除期限、削除証明の方法
- 他サービスへ移すために必要な設定情報
- 契約終了後の閲覧・問い合わせ期間
- 事業者変更時の引継ぎ協力範囲と費用
特定製品の形式だけを前提にせず、運用継続に必要な情報を一覧化します。終了条件は、導入時の価格比較とは別の評価項目です。
仕様書確認チェックリスト
- 利用目的、対象業務、禁止用途を区別した
- 国向けガイドラインを自治体の一律義務として扱っていない
- データの保存、学習利用、再委託、削除を確認した
- AI出力を人が確認する責任と停止権限を決めた
- 品質要件にテスト方法と受入基準を付けた
- 仕様変更、障害、事故の通知期限と連絡先を決めた
- 契約終了時の返却、削除、移行を明記した
評価表は要求事項と同じ単位で作る
仕様書に要求を書いても、審査時の評価表が価格と機能数だけなら、重要な運用条件が選定へ反映されません。要求事項ごとに、必須か評価対象か、提出を求める資料、審査担当、確認時期を揃えます。提案書の説明だけで判断せず、契約条項、管理画面、テスト結果、運用体制など、確認可能な根拠を指定します。
また、調達担当だけで決めず、実際の利用部署、情報セキュリティ、個人情報保護、法務・契約、運用管理の担当が早い段階で確認します。すべての部署が同じ詳細を審査するのではなく、各担当が判断する項目と最終決定者を明確にします。利用開始後は、仕様変更や重大な障害、再委託先の変更などを契機に、当初の要求を満たしているか再確認します。
近い行政AIテーマとの境界
AI官民連携事業を始める前の役割分担とデータ利用条件は、共同事業における成果帰属や官民の協議を扱います。自治体の中小企業AI導入支援は、地域企業向け支援事業の相談から実証への接続を扱います。本記事は、自治体が自ら利用する生成AIサービスの調達仕様、受入、契約終了条件に限定しています。
地域企業支援や庁内業務を含むAI活用の整理が必要な場合は、LIFESEEDSのAI活用・業務効率化支援をご確認ください。個別の調達可否や法的判断は所管部署・専門家へ確認し、業務整理の相談はお問い合わせから受け付けています。


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